車いすバスケットボール

私が卒業した大学のゼミに、手動車いすユーザーの先輩がいました。

普段は恥ずかしがり屋で、いつもニコニコ、

話すときもゆっくり噛み砕いて喋るような性格の先輩でした。

 

地方の大学だったこともあり、先輩の移動は主に車。

車いすから運転席に移乗して、車いすを折りたたみ、

運転席のシートを後ろに倒して自分の膝の上をコロンと転がして後部座席に車いすを積み込みます。

 

運転席を戻してハンドルにつけたノブを握り、アクセルとブレーキの代わりになるレバーを引いて、発進します。

穏やかな性格だから、運転も穏やかなのかと思いきや、ハンドルをキビキビ操作し、アクセルも全開。

毎回、人が変わったーっ!!と叫びたくなるほど。

ゼミ生のみんなでご飯を食べに行ったり、ドライブしたり、

いつも同じメンバーで、先輩の運転する車で出かけていました。

 

そんな先輩が連れてってくれたのが、障害者スポーツセンター。

中学時代にバスケ部だったよと伝えたら、バスケできる?

と嬉しそうな顔をしたのが今でも印象的です。

 

いつもの4人でスポーツセンターの体育館に行くと、

先輩が自分のバスケットボール用の車いすを見せてくれました。

普段使っている車いすは、前から見ると後ろの大きな車輪が地面に対して

垂直より少しだけ「ハ」の字になっているのに対し、

バスケ用の車いすはかなり「ハ」の字に近い角度。

より転倒しにくい作りになっているのだそうです。

 

ルールもほぼ同じで、1回ドリブルしたら膝にボールを置いて2回車いすを漕いで良くて、

3回漕ぐとトラベリングで、相手チームのボールになります。

実際にやってみると、ドリブルはできるけれど、パスやシュートが難しい。

腕の力だけでボールを投げるのはかなり大変。

普段、人がどれほど無意識下で体全体に力を分散させて使っているかを実感することができました。

 

後日、先輩の所属するチームが練習試合をすると言うので見に行ったら、

障害者のイメージを大きく覆す光景を目の当たりにすることになりました。

健常者がプレイするバスケットボールと同じように、

車いすで鮮やかなターンを決めてディフェンスをかわしてシュートを決めたり、

シュートを外したボールを車いすごとジャンプしてキャッチしたり。

 

車いす同士が激しくぶつかり合い、選手が乗った車いすが後ろに倒れて車いすから落ちてしまっても、

腕の力で体を車いすに引き上げてすぐにプレイに戻っていきました。

圧倒的な迫力がコート中を駆け巡っていて、別のスポーツを見ているようでした。

 

試合の後、先輩に混じってチームメイトの方々の話を聞くと、

年齢層は30代、40代がメインだそうで、当時20代前半だった先輩は、

チームにとっては久々に加入した期待の若手。

ほとんどが交通事故などが原因で車いす生活になったそうで、

人生が終わってしまったと思った人も少なくないと言っておられましたが、

車いすバスケットと出会ったことで、仲間ができ、生きる張り合いができ、

筋力と体力が鍛えられたおかげで、車いすになっても日常生活にほとんど不便がなくなったとのこと。

 

チームの皆さんが口を揃えて言っていたのは、

もっと早く車いすバスケットに出会っていたらな、ということでした。

今は障害を乗り越え、前向きにスポーツを楽しむ方々ですが、

それぞれに、気持ちが塞いでいた期間が長かったのだそうです。

 

先輩やチームメイトの方々は、独自のネットワークを駆使して、

車いすユーザーがいないか情報収集をしています。

車いす初心者を見つけたら、少しずつ距離を詰めて知り合いになっていき、

気持ちが少し前向きになっているかな?というタイミングを見計らって、

車いすバスケットを見に来るように誘うのだそうです。

 

彼らの目的は、車いすでもこんなことができる!!と自信を持ってもらうこと。

少しずつ簡単なワザを覚え、明るい笑顔を見せ始めるのがたまらなく嬉しいそうです。

車いす初心者と出会えても、なかなかチームメイトにまではなってもらえないそうですが、

それでも彼らの活動は今でも続いているそうです。

 

車いすユーザーでなくても楽しめる車いすバスケットやスポーツ。

7年後の東京オリンピック・パラリンピックで、その迫力を間近でぜひ体感してください。



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