外に出ることで感じた人との結び付き

3年前に失明してからは、自宅に閉じこもる事が多くなり、

いつしか外出は極力控える生活を送るようになっていました。

しかし、これでは心身共に良くないし、社会復帰したいと思う気持ちが日々強くなってきたため、

一念発起して日本盲人職能開発センターに通う事にしました。

 

このセンターでは、障害特性に応じた技能習得の手助けをしてくれます。

自宅から駅までの道のりは、商店街を通り抜け、大きな道路を渡り、駅前の繁華街へと続く、

直線距離にして約700m、徒歩7分の道のりです。

人通りが多く、また商用車の出入りの激しいこの道は、常に危険と隣り合わせなので、

杖頼りの視覚障害者にとっては歩きづらい道です。

 

そこで、歩行訓練士にお願いして、駅まで安全に歩くことのできる迂回路を作成して頂き、

その道を覚えるため、何度も歩行訓練を繰り返しました。

 

迂回路は、車の往来の少ない生活道路や点字ブロックが敷設されている道を優先しているため、

歩行距離は倍に伸びてしまいました。

距離が伸びた上に、杖を使っての歩行は一歩ずつ安全確認しながらになるため、

歩行スピードが極端に遅くなります。

 

歩行訓練を始めた当初は、それまで7分で歩いていた駅までの道が、40分位かかるようになりました。

二ヶ月間、毎日歩行訓練を重ねる事でなんとか20分程度で駅まで辿り着けるようにはなりましたが、

そこに至るまでには多くの人の手助けを必要としました。

 

駐車場や駐輪所に迷い込まないように見守ってくれた守衛さん、

商業施設の荷捌き所で働く皆さん、

街角のゴミ集積所に飛び込まないように手早くゴミを収集してくれた収集作業員さん。

おかげさまで、毎日安全に駅まで通うことができています。

 

駅までの歩行訓練や通学の際は、できるだけ同じような格好をして出かけるよう心がけました。

ツバの長いキャップ、襟付きのポロシャツ、ジーンズにスニーカー、

背中には黒のリュックを背負い、右手には白杖。トレードマークを設定し、

周囲の人に印象付けるためです。

駅までの道を安全に歩くために、周囲の手助けが必要不可欠な私にとって、

できるだけ多くの人に私の存在を知ってもらうことは大事な事でした。

 

毎日、同じような時間に同じような格好をして駅までの道を歩くようになると、

数名の方から声がかかるようになりました。

「袖振り合うも多生の縁」と言いますが、ほんの些細なきっかけで人と結びつくことができるのだと、

日々の生活を通して実感しています。



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